「ストーリーや感情、そこに居合わせた印象や温度感をいれていく」野田夏実さんに聞くコンセプトとモチーフ
陶器作品を制作するアーティストの野田夏実さんのインタビューをお届けします。
野田さんの制作の原点には、人と食事が深く関わっています。
作品はどのように生まれたのか、そしてどのように変化していっているのか。
テーマごとに3回に分けてお話をお伺いしていきたいと思います。
今回、第2回目として「野田夏実」「Imustan」という2つのラインのコンセプトやモチーフについて詳しく伺っていきます。
第1回目は以下からお読みいただけます。
「食事の場で生まれる人とのコミュニケーションが制作の原点」野田夏実さんが語る作品が生まれるまで
" ストーリーみたいなものとか、その時の人の感情とか、
そこに居合わせた印象とか、温度感を入れていけたらいいなと
思いながら作っています "
「野田夏実」「Imustan」という2つのラインは、それぞれどのようなコンセプトで制作されているのでしょうか?
ー 2つのライン、それぞれのコンセプトについて教えていただけますか?
2つラインはあるのですが、元のコンセプトというか考えていることは同じで、そこから派生しています。育った下町の町内の狭さというか、町内みんなが仲が良くて、お神輿をみんなで担ぎに行ったりする感じなのですが。(笑)
小さいときからいわゆる下町というところで、そうした人の集まりのなかで日々を送っていて、やはり人が好きだな、という思いははすごくあります。
それから大学の食事の場で、食に貪欲だったり、そこからコミュニケーションが生まれたり、という体験も自分の中でしっくりきました。
じゃあ、そこに関われる食器をやっていきたいということで、今のお皿のシリーズなどを始めていったという感じです。
ー 人が好きというところから派生した食を通じた人とのコミュニケーションというコンセプトが共通しているんですね。
はい。大学を出てすぐは、今と作っているものは一緒なんですけれど、コンセプトとして「ネオごはん」と名乗っていました。
例えば、みんなで食事するときに、まずお皿を料理を作ってくれる人に見せて、そのお皿を見て思い浮かぶのを作ってとお願いします。そうしてできた料理をみんなでそのお皿で食べて、そのときの出来事が「あのお皿で食べたな」みたいな、記憶に残っていたらいいな、という。コミュニケーションのきっかけとしての食器ですね。
" 自分の中で好きな映画だったり、音楽だったり、
それにでてくる人とか関わる人とかのイメージを、
全て植物に置き替えています。
人の感情などを植物の姿を借りて表現しようというのが、
最初にあり、それは今も変わっていません "
「野田夏実」ラインのモチーフはどのように生まれているのでしょうか?
ー 「野田夏実」ラインのモチーフについて具体的に教えていただけますか。
野田のほうは、よく花の柄として見てもらうのですが、自分の中では「柄」と意識すると、広げられないというか、飽きがきてしまうので、あまり花としては見ていないんです。植物や花も人と似ていると思っています。いろんな種類があったり、動きがあったり、色が違いますよね、地域によっても。特徴のある花がない植物も、なにか人みたいだなと思って。
特に大皿の方は、自分の中で好きな映画だったり、音楽だったり、それにでてくる人とか関わる人とかのイメージを、全て植物に置き替えています。人の感情などを植物の姿を借りて表現しようというのが、最初にあり、それは今も変わっていません。
どういう映画や音楽を参考にしたかは、公表はしていないのですが、お皿ごとに自分の中でテーマとか色も、そうして決めています。
小皿のほうは、もう少し自分の身近な出来事や楽しかったことなどが元になっています。出来事を思い浮かべて、それを置き換えて考えたりして、お皿に何かを思い出しながら絵付けしていきます。
好きな映画もそうですが、出来事も思い出しながら絵付けするので、自分の中でこうポートレートではないですが、自分に記憶していく作業のようでもあるなと思いながら制作しています。
ー 記憶の中の出来事をこうお皿の中で再配置して行くみたいな、そういう作業なんでしょうか?
そうですね。それごとに全部使う植物とかモチーフも決めて、例えばこういう人は、この植物に置き換えられるみたいな感じです。踊ってるみたいな位置の配置にしよう、とか。(笑)
ー 確かにあの植物の配置は、有機的なというか、ルールが見えないというか。普通に模様として考えたら、こうはならないんじゃないか、という感じがしていたので、納得です。
はい。ストーリーみたいなものとか、その時の人の感情とか、そこに居合わせた印象とか、温度感を入れていけたらいいなと思いながら作っています。ー 植物はどのようなものからインスピレーションをもらうのでしょうか?
植物は直接スケッチをして、そこから採用することもあるんですが、バティックなどインドやバリなどの古い布に描かれた植物からもらうこともあります。
ただ、参考にはしても、そのまま使うことはなくて、一回自分の中でパーツに分解して、また再構築して、同じ植物は書かないようにしています。
" 手は顔と同じくらい
その人の感情が本能的に出やすいパーツだと感じていて、
何気ない動作にも潜在的な気持ちが垣間見れるところが愛おしいと思って、
手をモチーフとして選んでいます "
「Imustan」ラインのモチーフはどのように生まれているのでしょうか?
ー 先ほど、野田夏実もイムスタンも元の考えは同じと伺いました。イムスタン名義では「もしかしたら ありえるかもしれない なんだか怪しい」をテーマにされていると思いますが、こちらもどのようにコンセプトが生まれたか教えていただけますか?
イムスタンはという名前は夏実(natsumi)ををローマ字にして逆から呼んだだけなのですが、イムスタンてよんでみると国っぽい響きで、架空の国というコンセプトが生まれました。一つの国だと考えたときに、手からビームみたいの出てたりとか、そういうのが使える国としてやっていこうと。そうして「もしかしたら ありえるかもしれない」という、最初のイムスタンのコンセプトができました。
ちょっとミスマッチなことが起きてもいいんじゃないかな、と。そういうのがありな国という設定でやっています。
ケーキ食べたいと思ったら手から出せばいいじゃん。みたいな。(笑)
ー 手のモチーフが多いですよね。
多いです。単に私が手が好きだからというのもあるのですが。手は顔と同じくらいその人の感情が本能的に出やすいパーツだと感じていて、何気ない動作にも潜在的な気持ちが垣間見れるところが愛おしいと思って、手をモチーフとして選んでいます。
マグカップにとかに手が描いてあるというのもあまりないですし、しかもすらっとした手じゃなくて、少しムチムチで。もともとは春画とかの浮世絵の手の表現がすごくいいなと思っていて影響を受けていると思います。こうちょっと反りがあったりする。
ー マグカップの裏表、手や植物、食べものから、身近な事象まで、色々だと思いますが、どのように決めているのでしょうか。
マグカップの表裏は、自分の中で好きなイメージや気になるモチーフを描くのですが、例えば、トラはすごく気になるイメージなので、トラなあ、と思って色々考えてて、絵本のバターもあるなとか。自分の中で連想ゲームではないけど、国の中で起きたことだから結構自由に考えています。(笑)野田夏実の方は引きでみて、情景作っていくのですが、イムスタンの方は自分も中にいて、同じ状況楽しんでいて、体験型な感じです。
(野田夏実は)客観と、(イムスタンは)中に自分がいるという違いがありますね。感覚としてですが。
ー 同じ柄は作らないと伺いましたが。
はい。一つ一つ考えながら制作するので、同じ図柄を使ったとしても色や組み合わせは変えています。買ってくれた方も多分「これがいい」と思ってくださっていると思うので、同じものがいくつもあったらちょっと嫌かなと。私も物を買うときに、一点ものというか、全部ちょっとずつ違っているものの中から、これがいい!と選んだりするので、そういうところは大事にしたいと思っています。
ー コンセプトを知ると作品を手に取る楽しみも増えますね。次は制作の様子や、今後の展開について教えてください。
→次回へ続きます。
次回は制作方法や今後の展開についてお伺いしています。