著者: Ho Tzu Nyen ホー・ツーニェン
言語:日本語/英語
出版社:torch press
サイズ:14.8 x 22 cm
重さ:300g
戦争と人間、そして妖怪、今知るべき意味。
本書は豊田市美術館で開催されたシンガポール出身のアーティスト、ホー・ツーンニェンの個展「百鬼夜行」の開催に際し出版されました。「百鬼夜行」とは、夜にさまざまな怪異のものが列をなして練り歩くことをいいます。古くは9世紀の文献でこれを見たとする記述が残っており、現在では転じて魑魅魍魎が集い醜い行いをすることを意味することもあります。(ときに権力者などの醜い行いを揶揄する表現にもなる。)今回の展覧会でテーマとなったのは「妖怪」。日本で育った人の多くは、アニメやマンガを通して妖怪は身近な存在だったのではないでしょうか。妖怪をモチーフとしたアニメーション作品は親しみやすい表現でしょう。ホー・ツーニェンは日本のみならず広くアジア全体のリサーチを通して、日本の「妖怪」の姿をかりた人間の執着や日頃上手に隠されている本性を、戦争の痕跡とともに鮮やかに見せます。
本書では、日本の妖怪をアニメーションタッチのイラストで紹介しつつ、その妖怪が表す本質(ときに人間の本性)について、作家や哲学者などの言葉を借りた短な文章が添えられています。その文章は自分のなかにも思い当たるような、チクッとするものだったりするのです。それは人間の執着や、また戦争のようなによって顕になる人の本性なのかもしれません。今この時代に改めて向き合うべきものに気づかせてくれるものではないでしょうか。
出版社サイトよりーーーーーーーーーーーーーーー
ホー・ツーニェンは 、映像、インスタレーション 、サウンド、演劇といった多領域を横断しつつ、時に妖艶に、時にダイナミックに観る者を魅了しながら、出身地のシンガポールを軸にアジアを舞台にした作品を展開しています。豊田市美術館で開催中の「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」展では、アニメーションを用いて、奇怪かつ滑稽な100の妖怪たちが闇を練り歩きます。そこには、第二次世界大戦中にマレー(シンガポールは1963年にマレー連邦から独立)で活動した日本人も、 妖怪たちの姿を借りて登場します。ともに「マレーの虎」の異名で呼ばれた山下奉文(ともゆき)大将と60年代のヒーロー番組「怪傑ハリマオ」のモデルになった谷豊を中心に、その周囲で暗躍した軍人やスパイ、そして当時の思想家たち。日常の裂け目から現れる妖怪は、魔に魅入られた時代を映し出すでしょう。
恐怖と好奇心で大衆の心を惹きつけてきた妖怪は、伝承と科学、自然と超自然、忘却と郷愁の間で、時代とともに揺れ動いてきました。近代以降に消えた妖怪とそれ以降に世界を席巻した戦争、そして現代の日本文化―この過去と現代が交わる地点に、複雑な日本の歴史や精神史が浮かび上がります。本展覧会図録となる本書では、100の妖怪たちを紹介するガイドであり、展覧会に込められた多様で複雑なエレメンツを読み解く書でもあります。
豊田市美術館 2021年10月23日(土)~2022年1月23日(日)
「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」