題字:角田 純
監修:三好悦子
デザイン:峯崎ノリテル、正能幸介((STUDIO))
撮影:大森克己、齋藤圭吾、塩田正幸、渡邊竜康、木村二郎ほか
言語:日本語/英語
サイズ:30.0 x 23.0 cm
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1993年、山梨県北杜市の八ヶ岳の麓でGallery Traxはスタートしました。インテリアデザイナーの木村二郎と、デザイナーだった三好悦子の二人によって始まったこのギャラリーは、廃校の保育所を木村自らの手で改装し、木村が手がけた家具やオブジェがその空間に配されています。Traxが特殊な場所であるのはその立地や空間だけでなく、角田純、五木田智央、大森克己、川内倫子、できやよいらのアーティストが、キャリアの初期から展示してきたことにもあります。風が通り抜け、光が差し込むギャラリーは、いわゆるホワイトキューブの空間ではなく、作品と空間がそこで呼吸しているようで、空間自体が作品でありながら数々の作品を包み込んできました。2004年に木村が他界してからは、三好がギャラリーとしてその場所を守り続けており、現在も木村の精神の宿る場所となっています。
八ヶ岳に移り住んだ木村は、Gallery Traxの改装がきっかけで、古材を用いた椅子やテーブルなどの家具を製作するようになりました。そこから亡くなるまでの11年程という短い期間に、創作意欲に溢れた数々の家具やオブジェを生み出しています。一方、益子のスターネットの設計など、ユニークな建築物も手がけてきました。彼の作品は、木村の没後20年経ったいまなお色褪せることなくTraxを中心に数多く残されています。本書では、木村二郎が残した膨大な写真や資料から、Traxを軸にしながら家具やオブジェ、空間作りをまとめています。Traxとゆかりのある坂口恭平、エレン・フライス、松下透(SIDE CORE)の書き下ろしテキストのほか、木村のスケッチや図面、インスピレーション源となる庭や縄文の写真なども収録。Traxというギャラリーであり、木村二郎の作品である場所とともに、その創造の軌跡を紐解いていきます。
Traxで過ごしていると、記憶とは過ぎ去った時間のことを指しているんじゃないんだと感じる。Traxという空間は湧水でできた小川みたいに、ずっと静かに記憶が流れ出ているから。
―坂口恭平(本文より)
初めて見た時から私は二郎の家具に夢中で、椅子のひとつをフランスに送ってもらえたらと長年夢見ていた。彼の作る作品はどれも強い存在感を放ち、モダンでありながら概念的というよりは直感的で、とても自由な佇まいを持っていた。
―エレン・フライス(本文より)
木村二郎(Jiro Kimura)
1947年大阪生まれ。大阪でインテリアデザイナーとして活躍後、八ヶ岳南麓(山梨県北杜市)築130年の農家に住み始める。1993年、三好悦子と共にGallery Traxをスタートする。以来、オリジナル作品を手がけ、オブジェ、家具、空間デザイン、映像を発表。近隣の廃屋から出た古材や梁、農具など素材から生み出したこれまでにはない巧みでモダンな家具が注目される。手掛けた店舗に、ギャラリー歩ら里、レストラン臺眠(山梨)、スターネット(益子)ほか。個展にOZON(2000年)、JMギャラリー(1995年、1999年、2000年、2004)などがある。2004年2月死去。2009年に北杜市立須玉歴史資料館にて「木村二郎回顧展」が開催され、マッチアンドカンパニーから『Jiro Kimura大森克己』が刊行された。