出版社:くま書店
言語:日本語
サイズ:23 x 2.5 x 29 cm A4判変形/ソフトカバー
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西洋において、真似ることは「堕落」であった。日本において、真 似 る こ と は「 昇 華 」で あ っ た 。和 歌 の 伝 統 手 法 で あ る「 本 歌取り」は、いにしえに詠まれた歌の心の一部を借り受けて、今の世 の 心 の あ り さ ま を 接 木( つ ぎ き )す る と い う「 う た よ み 」の作法であった。真新しい時代精神は、古き良き時代を否定することなく、昇華して、新しい時代へとその魂を引き継ぐのだ。
私 は そ の 作 法 は 、和 歌 だ け で は な く 、茶 や 花 、香 り( 香 道 )やかたち(建築)にまで連綿と受け継がれてきたのだと近頃思う。いわば「本歌取り」は日本文化の通奏低音なのだ。私は現代美術作家として、その作法を受け継ぎたいと思う。
杉本博司
杉本博司はかつて、自身の作家活動の原点ともいえる写真技法を和歌 の伝統技法である本歌取りと比較し、「本歌取り論」を展開しました。このなかで杉本は、日本文化の伝統は旧世代の時代精神を本歌取りする こと、つまり古い時代の感性や精神を受け継ぎつつ、そこに新たな感性 を加えることで育まれてきたものであろうと述べています。さらには、 日本だけでなく世界中の文化に本歌を求め、自身の創作においても本 歌取りを試みています。 本書では、写真技法のみに留まらない更なる「本歌取り論」の展開を試 みます。時間の性質や人間の知覚、意識の起源といった杉本が長年追求 してきたテーマを内包しながら、千利休の「見立て」やマルセル・デュシ ャンの「レディメイド」を参照しつつ独自の解釈を加え、新たな本歌取 りの世界を構築します。写真作品《天橋立図屏風》とその発想の源泉と なった《三保松原図》、春日大社に関わりのある《金銅春日神鹿御正体》 とそれを本歌とした《春日神鹿像》ほか、国宝を含むさまざまな名品と 杉本作品、杉本による名品の取り合わせ。作品とそこに添えられたエッ セイから、杉本博司という現代美術作家の制作の源泉を紐解きます。
杉本博司
1947年東京生まれ。74年よりNY在住。活動分野は、写真、彫刻、インスタ レーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐にわたる。2008年建築設 計事務所「新素材研究所」、09年公益財団法人小田原文化財団を設立。日本の伝統芸能振興に努め、国内を始めパリオペラ座、ニューヨーク・グッゲン ハイム美術館、ニューヨーク・リンカーンセンター、マドリード・エスパニ ョール劇場など世界各地で公演を手掛ける。主な著書に『苔のむすまで』 『現な像』『アートの起源』『江之浦奇譚』『杉本博司自伝 影老日記』など。 1988年毎日芸術賞、2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松 宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)受賞。2010年秋の紫綬褒章受章。2013 年フランス芸術文化勲章オフィシエ 叙勲、2017年文化功労者。
展覧会情報
「杉本博司 本歌取り 東下り」
渋谷区立松濤美術館
2023年9月16日(土)~2023年11月12日(日)
前期:9月16日(土)~10月15日(日) 後期:10月17日(火)~11月12日(日)
前期:9月16日(土)~10月15日(日) 後期:10月17日(火)~11月12日(日)
※会期中、一部展示替えあり