2位以降は、ここ数年の流れでThinker(思想家と訳すのが適切でしょうか?)の台頭が目を引きます。2位のAnna L. Tsing(アナ・ツィン)はアメリカの人類学者で、フェミニズムや人新世(アントロポセン)などを研究対象としています。こちらは改めて書籍などを紹介したいと思います。アントロポセン、キーワードになっていますね。またアート・コレクティブも多くランクインしています。現代アートにおける非常に重要な賞である、イギリスのターナー賞も今年はファイナリスト5組全てがアート・コレクティブでした。Tokyo Art Beatさんのこちらの記事で授賞式の様子がレビューされています。https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/turnerprize2021_arraycollective
5年前のPOWER100と比較してみると、アート・ワールドは徐々にでも着実に変化しているのがとてもわかりやすいと思います。(写真ご参照)2016年には、アーティストと並んでメガギャラリーのディレクターや有名美術館の館長などが上位を占めていたのに対し、現在は思想家やアートコレクティブがそれに取って代わっています。この状況は何を示しているのでしょうか。高額で作品が売買されるアート・マーケットは変わらずあり続けるのでしょうが、そうではないアートのあり方を模索する動きが、もはやメインストリームとなりつつあるのかもしれません。ターナー賞のアナウンスには一つの方向が示されているように思います。
”All the nominees work closely and continuously with communities across the breadth of the UK to inspire social change through art. “
ノミネートされたアーティストは皆、イギリスの幅広いコミュニティーと密接にまた継続的に活動し、アートを通して社会変革を促しています。
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東京都現代美術館において新しい展覧会が始まりました。以下3本の展覧会が同時開催中です。
・クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]
・Viva Video! 久保田成子展
・ユージーン・スタジオ 新しい海
クリスチャン・マークレーは、一貫して音楽や音の社会における表象を追ってきたアーティストで、1979年にターンテーブルを用いたパフォーマンスを通してアートと音楽の探求をはじめ、初期のシリーズ”Recycle Records”では、レコードそのものを切断、コラージュし、再生可能でありながら予測不可能な音楽を作り出しました。マンガに現れる音の表現であるオノマトペをモチーフとした作品、異なるレコードのジャケットをつなぎ合わせた”Body Mix”シリーズなど、音楽をテーマとしながら、そこに浮かび上がる社会問題を鋭く捉え、表現しています。映像作品もとても良かったので、ぜひゆっくりご覧いただきたいです。 本展カタログは、12月下旬に発行が予定されています。こちらでも取り扱い予定です。当サイトにて音楽とアートをテーマに本を選んでいただいた中川克志さんも寄稿されています。
同時開催のViva Video! 久保田成子展も充実の内容です。久保田成子は活動の初期にはフルクサスに所属し、映像と彫刻を組み合わせた「ビデオ彫刻」で知られるビデオ・アートの先駆者の一人です。資料等のアーカイブも充実し、こちらもとても見応えがある展覧会になっています。「デュシャンピアナ」シリーズでは、マルセル・デュシャンの作品を新たな解釈で乗り越えようとする一連の作品が見られます。その後のビデオ彫刻は山、川、水といった自然のモチーフをテーマに、映像と彫刻とが組み合わされ、独自の世界観が表現された圧巻の作品群です。
東京都現代美術館の隣には、広大な敷地を誇る木場公園があり、テニスコート、ドッグラン、噴水、広場と、施設も充実しています。コーヒーをテイクアウトして散歩するのもいいですね。(残念ながらこの日は曇り。。)
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アーツ千代田3331にて、今月21日(日)まで「サウンド&アート展-見る音楽、聴く形」が開催されています。「見る音楽、聴く形」をテーマに、新しい創造的な楽器やサウンドをめぐる作品を集めた展覧会です。
実際に触れて音を出せる作品があったり、自動演奏を聞くことができたりと体験型で楽しめる展示構成になっており、ベルナール・バシェによる教育音具などはお子様も楽しめそうです。
本展の図録には、こちらでも選書をしていただいた中川克志さんが創作楽器について寄稿されています。今のところ展覧会場でのみ図録が購入可能とのことです。こちらも充実の内容ですので、ぜひ会場でお求めください。
アーツ千代田3331は他にもギャラリーやカフェ、公園が併設されており、ゆっくり過ごせます。週末のお出かけにぜひ。
※「サウンド&アート展」は事前の入場予約が必要です。
【展覧会概要】
「サウンド&アート展-見る音楽、聴く形」
2021/11/06(土)~2021/11/21(日) 12:00~18:00 (会期中無休)
一般1,200円/高校・大学生600円/中学生以下300 円/未就学児無料
3331 Arts Chiyoda
1F メインギャラリー
東京都千代田区外神田6-11-14 >>Map
展覧会は以下のような構成になっていました。
エントランス: 今回図録の表紙にもなっているメインイメージ
最初の展示室:
データ可視化のプロジェクト。NFTの取引データを可視化し、作品のサムネイルを取引情報の更新にあわせて表示、無数の画像の海に取り込んでいくという趣向でした。逆の壁には証券取引のデータを可視化させています。
普段意識することのないインターフェースの裏側に流れる大量のデータを、目に見える形で我々の前に提示するひとつの手法を見ました。
ELEVENPLAY×ライゾマティクス“multiplex”
新作の展示でした。同作品は2段階での体験が可能で、まずはダンサー、キューブのロボティクス、映像が融合された映像作品。続く部屋へ足を踏み入れると、先程の映像作品のダンサーがいないバージョンを実際に見ることができます。自動で動くキューブと映像のコラボレーション。部屋のサイズは横30メートル近いと思われるので圧巻でした。
これまでのプロジェクト紹介
そのあとのスペースでは、多数のプロジェクトの紹介が映像や実際に使われたハードウエアと共に展示されます。こんなにも多様なプロジェクトがあったのか、と驚きます。来場者も一つ一つしっかり見ている方が多く、結構混雑してました。見そびれてしまった展示もいくつか。。
出口近くの吹き抜けの展示室
アルス・エレクトロニカのインタラクティブ・アート部門で入賞した作品「Particles」が圧巻の展示でした。暗い空間を巨大な枠組みのなかで動き回る光るボールは、現実の空間に3Dの映像を施したかのようでした。ボールが動いた奇跡が見えるので、空間にさっと線を引いたみたいなんですよね。
最後の展示室
こちらではまさにプロジェクトの裏側を見せてくれています。かなり面白かったです。最初の展示室で可視化されていたデータの生データが流れていたり、実際に使っているソフトウエアが見れたり。
図録が大事だな-と思うのは、展示で見た印象を定着させるのにとても役立つから。作品を実際見るのは本当に大切なのですが、印象が強くなるので、作品が制作された過程とか、アーティストの考えていることとか、キュレーターの意図とかを帰ってじっくり紐付ける作業が必要な気がしています。
図録入荷してます。こちらから>>
ライゾマティクスの展示は、テクノロジーの幅が非常に広いので、メディア・アートというと少し幅を狭めてしまう言い方かもしれませんが、メディア・アートについてもっと知りたい方にはこれまでに刊行されている書籍を集めてみましたので、あわせて参考にしてみていただけたら嬉しいです。
メディア・アート特集>>
参考資料:
「ライゾマティクス_マルティプレックス」東京都現代美術館監修、フィルムアート社
ライゾマティクスウェブサイト (https://rhizomatiks.com)
草間彌生は1929年長野県に生まれ、1957年、28歳のときに単身渡米します。シアトルで初の個展を開催すると、その後ニューヨークに拠点を移し、アートスクールに通いながら作品制作を続けます。1962年にはアンディ・ウォーホル、クレス・オールデンバーグらとグループ展に参加し、1963年にガートルード・スタイン・ギャラリーにて「集合:1000艘のボートショー(Aggregation: One thousand Boats Show)」を発表します。壁一面に同じボートのイメージを反復する手法は、アンディ・ウォーホルにも多大な影響を与えたと言われています。この頃同じロフトに住んでいたのが、ミニマル・アートのドナルド・ジャッドら先進的な活動をしていたアーティストたちでした。ジャッドはその後草間の代表的なシリーズとなるInfinity netsの作品を購入するなど、長い友人関係が続くこととなります。1965年頃からは裸の男女に水玉模様を施すといったゲリラ的な行動で注目を浴びます。ハプニングと呼ばれるこの活動はニューヨークでも大きな注目を集め、草間彌生の名を有名にしました。1966年にはヴェネツィア・ビエンナーレに参加し、1500個のミラーボールを水に浮かべた作品「ナルシスの庭」を発表します。現在ニューヨークのBotanical Gardenで開催中の展覧会「KUSAMA:COSMIC NATURE」でもこの作品が見られるようです。今やビッグネームとなったアーティストと肩を並べ、影響を与え合いながら、アーティストとしての活動を続けたことで、その地位は確固たるものとなっていきます。70年代半ばに日本に帰国した後、決して理解を得られたとは言い難い状況ではありましたが、小説、コラージュ作品とその制作意欲は衰えることを知らず、理解者を得て活動を継続します。1993年にベネツィア・ビエンナーレの日本館代表として初の個展を開催すると、企業とのコラボレーションやテレビへの出演、海外での大型個展の巡回と、その後の活躍は皆さんもよく知られるところかと思います。
1950年代当時、海外へ活動の場を求めること自体が珍しかった時代に、単身アメリカでアーティスト活動を続けるだけでも、大変な苦労があったことは想像に難くありません。そのなかで独自の表現を生み出し、発信し、多くの批評にさらされながら、それを突き詰め、いつの時代も高いクオリティの作品を発表し続けたことが、今なお世界中で強い存在感を放つ理由となっているのではないでしょうか。
草間さんの関連書籍も数が非常に多く、絶版になってしまった書籍も少なくありません。LUCKY RECORDSでは今後絶版になってしまった書籍や、グッズなども取り扱いを進めていこうと考えています。他にも取り扱い希望の商品などありましたら、ぜひご意見いただけますと嬉しいです。
現在はニューヨークのBotanical Gardenで「KUSAMA:COSMIC NATURE」という植物園を会場にした展示が行われています。
https://www.nybg.org/event/kusama/
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コンセプチュアル・アートとは第二次世界大戦以降、欧米を中心に広がった欧米を中心に進んだ反芸術的かつ芸術そのもののあり方を問い直す傾向です。
分かりづらいですよね・・・。
簡単にいうと「アートとはなにか?」を真剣に考え、「これがアートだ!」とアーティスト自身が考えた方法で表現することにこだわったムーブメントと考えていいのではないでしょうか。現代アートが分かりづらいと思われる原因のひとつはここにあるのではと思っています。なぜかというと、前述の通り真剣に考えた結果、コンセプチュアル・アートのアーティストたちは「アートとは、結果としてできあがった作品ではなくて、その作品を制作するに至ったアイデアやコンセプト自体なのではないか?」と考えたから。つまり、「アートって本当に目に見えている作品のことなの?」と、とんでもない根本の疑問を呈して見せたのです・・・。
目に見えている絵画や彫刻といった物体ではなく、コンセプトこそが大事なのだと。
ここです。コンセプト。
コンセプトを理解しないと、わからない作品が結構多い。目に見えるものだけではなんのことやらさっぱり・・・という状況が発生してしまう。この後の時代にはやっぱり結果としての作品は大事だよね、という流れも出てきますが、それは別でお話したいと思います。
そのためこの時代の方たちはコンセプトを伝えるため、色々な手段を取ります。例えば手紙を送ったり、印刷物を作って配ったり。結果としての作品から開放されたので、一過性のパフォーマンスやイベントを重視するような動きも出てきました。
今回はそんなコンセプト重視のアーティストの作品集などを紹介します。
オノ・ヨーコ
ビートルズの主要人物ジョン・レノンの奥様としての知名度が圧倒的に高いですが、本質は非常に前衛的なアーティストでした。史上最大の問題作、無音の音楽作品「4’33」の作者として知られるジョン・ケージの教え子たちが中心となって組織したフルクサスというグループに所属しました。フルクサスは絵画や彫刻といった実体を伴うアートではなく、パフォーマンスやイベントなど一過性の高い表現を重視しました。
こちらの本はオノ・ヨーコの1960年代〜1970年頃までの活動をまとめたものです。
塩見允枝子
オノ・ヨーコと同じく、フルクサスに参加したアーティストです。東京藝術大学楽理科を卒業し、小杉武久、水野修大孝、刀根康尚らと「グループ・音楽」を結成し、ナム・ジュン・パイクによってフルクサスの中心人物であったジョージ・マチューナスに紹介される。以降フルクサスに参加し、イヴェントや、郵便を利用した作品などを制作します。
ダニエル・ビュレン
ストライプを街中に配した作品で有名なフランス人アーティストです。唐突に都市空間に現れるストライプは、それまで美術館やギャラリーに足を運んで見たいと思った作品を鑑賞するという当たり前の行為を否定します。見たいと思っていない鑑賞者に対し、暴力的にその視界に入ってくるのです。これもそれまでのアートの否定です。
フェリックス・ゴンザレス=トレス
トレスはいわゆる戦後のコンセプチュアル・アートに分類される作家ではなく、1957年生まれで80年代以降にアートシーンで活躍したアーティストです。その作品は、積み上げられた紙や、自身と恋人の体重と同じだけのキャンディーのインスタレーションなど、また来場者に作品の一部である紙やキャンディーを持って帰えることを許すという、まさにコンセプトの理解が必要不可欠なものです。しかし作品は、美しいインスタレーションで是非作品集を手にとっていただきたいと思います。
他にも色々なコンセプチュアルなアーティストの作品集を紹介しています。是非ご覧ください。
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キュレーションの方法 オブリストは語る
アート情報サイトArtReviewが発表するPower100に例年ランクインし、数々のエポックメイキングな展覧会を企画してきたキュレーター、現在はサーペンタインギャラリーのディレクターでもあるハンス・ウルリッヒ・オブリストによるキュレーションについて書かれた本です。キュレーターとして何を考え、何に影響を受け、行動してきたのかを自身の活動を振り返り、丁寧に語っています。キュレーターという仕事に興味がある方は是非一度手にとっていただきたい本です。
キュレーションの現在—アートが「世界」を問い直す
日本の批評家、学芸員、キュレーターたちによって、リアリティのある現在のキュレーションの状況が解説されています。欧米のアート界におけるキュレーションの現在や、日本におけるキュレーションを中心にみたこれまでの美術史の流れ、学芸員とキュレーターの違いについて等、日本の現状に即したキュレーションの現在を知ることができると思います。
Contemporary Art Theory
キュレーションに限定される内容ではないですが、欧米中心のアートの世界の中で、キュレーターといえばその先駆者であるハラルド・ゼーマン、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト、ニコラ・ブリオーといった名前は知る必要があるでしょう。本書はその冒頭にもある通り、「2000年以降のアートの状況を見通し、思考するために、いくつかの鍵概念を軸にして批評理論を紹介することを目的」としてまとめられており、重要な理論が紹介されています。
インディペンデント・キュレーターの先駆、ハラルド・ゼーマンの展覧会の紹介、ニコラ・ブリオーの「関係性の美学」にまつわる論争の解説、オクウィ・エンヴェゾーのドクメンタ11を起点にした<ドキュメント>の展開など、重要な言説と付随するアート活動について知ることができます。
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難しい印象のある現代アート。興味はあるけれど、どこから手を付けていいかわからない、本もたくさんあって選べないという方もいらっしゃると思います。まず少し現代アートを知るために本でも読んでみようかな、という方向けに何冊か現代アートを学ぶための本をご紹介したいと思います。
]]>また、興味はあるけれど、どこから手を付けていいかわからない、本もたくさんあって選べないという方もいらっしゃると思います。まず少し現代アートを知るために本でも読んでみようかな、という方向けに何冊か現代アートを学ぶための本をご紹介したいと思います。
「現代アート事典 モダンからコンテンポラリ-まで……世界と日本の現代美術用語集」
美術手帖編集部
辞典というと難しいイメージがあるかもしれませんが、入門講座+40のテーマで構成されており、実際の作品の画像や挿絵も多くわかりやすいです。まず読んでみるのにおすすめです。入門講座でざっくりとモダン・アート〜コンテンポラリー・アートへの流れを学び、あとは興味のあるテーマ別に拾い読みすると面白いと思います。辞典というだけあって、キーワードからその周辺を学ぶこともできるのが便利です。
「めくるめく現代アート」筧 菜奈子
こちらも挿絵が多く難しくないので、とても読みやすいです。重要人物や重要なキーワードはかなり網羅されていますので、楽しく読めると思います。
「現代アートの本当の学び方」
主にアーティストになりたい方向けの「学び方」についての本になります。アーティストがどのように学んできたか、現代アートを学ぶにはどのような手段があるのかといった問いに日比野克彦さん、会田誠さんといった第一線で活躍するアーティストやキュレーター、アートプロデューサーなどが答えています。
「現代美術史日本篇1945−2014」中ザワ ヒデキ
戦後の日本の現代美術史をムーブメントと合わせてわかりやすく紹介されています。特にアーティストである著者が関わってくる80年代以降は時代の空気とともにそのアート動向を学ぶことができます。日本の現代アートの美術史に興味がある方はぜひ。
「現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル」 山本 浩貴
少しレベルが上がりますが、現代アートを美術史として少し深く学びたい方はこちらがおすすめです。欧米と日本の比較、副題にもなっているトランスナショナル(越境的な)な現代の状況が丁寧に説明されています。2000年代以降のアート動向についても目が向けられており、通史的に学べます。
「現代アートとは何か」 小崎 哲哉
欧米を中心とした現代アートの仕組みを知りたい方によい本だと思います。現代アートを知る上で、重要な6つのテーマ(キュレーション、マーケット、アーティスト、ミュージアムなど)について詳しく状況を説明した上で、現代アートの鑑賞方法についても具体的に説明があります。
参考になれば嬉しいです。
おすすめの書籍がある方はぜひお知らせください!
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